6/15のねこさん 文は田島薫
夜の梅ちゃん
きのうの夜けっこう遅い時間、外でフギャー、ってねこさんの叫び声が聞こえたんで、2
階の窓から外見てみたんだけどなにも見えないもんで、玄関から出てみた。
多分、となりのバレエ教室のうまちゃんがだれかとケンカだろう、って思ってそっち方面
へ歩いて行ってみると、うまちゃんはいなくて代わりに梅ちゃんが、バレエ教室の玄関前
に止めてる車の間の暗闇に座ってた。
あれ、こんな夜更けに梅ちゃんがいるなんてめずらしい、梅ちゃん、って呼びかけてみた
ら、ふだんの昼間なら自分から近寄って来るのに、きょうはその気配ないばかりか、2度
めに呼んだ時、迷惑そうにそばの車の下へ入って行ってそれっきり姿見せなかった。
昼間の梅ちゃんと、この夜の梅ちゃんの違いはどういうことなんだ。
さっきの一瞬のねこさんの叫び声と関係があるんだとすれば、別のねこさんと梅ちゃんが
遭遇して、梅ちゃんか相手のどちらかが声を出して、いずれにしても梅ちゃんじゃない方
は逃げて行ったんだろう。うまちゃんだったら、自分でもっと長々と大声出し続けたりわ
ざわざ追いかけたりして、バレエ教室先生である奥さんが出て来て、本名のにゃんちゃん、
って呼んで歩き回るはずだから。
梅ちゃんじゃない方が声を出した場合は、梅ちゃんがそのねこさんに気がついて親愛感持
って近づいて行ったら、そのねこさんいきなりそばに来られてびっくりした、ってことだ
ろうし、梅ちゃんが声を出した場合は、たぶん例のうまちゃんに先輩ってつきまとった後
輩が、梅ちゃんにも先輩、って近づいたもんで、昼間人間なんかの相手して疲れてて、ひ
とりになりたい梅ちゃん、思わず、こらっ、って叫んじゃった、ってことなのかも。
いずれにしても、自分のせいで相手が逃げちゃったもんで、梅ちゃん、なんだか哀しくて、
人間にお愛想ふりまくなんてまっぴらな気分だった模様。