きょうは、お・ひ・な・さ・ま
とある昼下がり、和菓子屋の店先。
和菓子屋といっても菓子司なにがしというりっぱなものではない。
店先より工場の方が広いという業務用の注文も受ける店である。
いつになく店内が混んでいる。
列の先頭は40歳そこそこの男性。ユニホーム姿を見ると近所の会社の昼休みらしい。
「桜餅四つと、つぶあんの桜餅四つ」とユニホーム氏。
「あの、桜餅につぶあんはありません」とは応対のおばちゃん。
「それじゃ豆大福四つ」とショーケースの中の値札をさしてユニホーム氏。
「豆大福はありません」とまたおばちゃんが…
値札もあるのにどうして、と言いたげな男に。
「きょうは作りません。三日ですから」とおばちゃんがたたみこむ。
いよいよわからなくなった男がそこに立ち尽くすと。
「きょうは、お・ひ・な・さ・ま、ですから」と噛んで含めるようにおばちゃんが…
意味がわからず、照れ笑いひとつしない男の後ろに並ぶ客は吹き出すわけにもいかな
くなった。
巷談 桃の節句 の一席 おそまつ!
はっ よよいのよ□ |