8/21のしゅちょう
            文は田島薫

無名の幸せについて


人それぞれ価値観ってもんが違ってるんで、若い時に、こんな風な人物になれたら人生の成

功者だろうなあ、多分なれないだろうけど、ってような理想の人物はみんな違ってるはずな

んだけど、私の場合は自分で歌を作って自分で歌うロックスターがそれだ。

創造的に自分の感動を作曲や作詞で再構築し充実感や達成感もありそうだし楽しそうだし、

かっこもいいから女性にもモテそうだし、それにくらべ、どっかの会社の部長になったり、

なんかの事業起こして金もうけしたりすることのどこがおもしろいのかがわからない。

だったら、余計な受験勉強なんかやらずに一気にそっちで努力したらよかったじゃないか、

って思っても、やっぱり、そりゃ夢物語りだろう、って自己セーブしちゃうのは凡人の常と

とりあえず安定を優先する良識、ってもんだろう。

そんな理想の形であるはずの若いロックスターが今年、あいついで自殺した。

もちろんロックスターの全員が自殺するわけじゃないし、現に私が一番評価(偉そうだけど)

してるニール・ヤングは70才越えても活躍中だし。

そうは言っても、彼の近年のライブ映像など観ると、若い時ほどの笑みは見られないし、体

の動きや表情も少しシンドそうに見えるから、大成功大人気を持続してて万単位のファンを

前にしてても、そんなに楽なことばかりでもなく辛さも感じてるのかもしれない。

ロックスターと言えども、日常生活を送ってて、その中からわれわれ一般人と同じように、

色んな悩みやら辛さを経験してるはずで、それがより増幅した形で歌などに表現されるわけ

で、それがヒットでもすれば、くり返し演奏を求められるわけで、呪文のように当人の心を

縛りつけることも大いにありうるわけで。

自殺したロッカーの歌詞を調べてみると、そんなやりきれない辛さの叫びのようなもんを感

じることが多くあったから、それをライブなどでくり返し歌い、それを逆に熱狂して喜んで

聴いて踊ったりしてるファンを見た当人はより孤独を感じたかもしれない。

思い返せば、歴代のそんなロックスター(やジャズのスターもそうだけど)は麻薬中毒やら

肝臓病などで自殺のように早死にしてる例が多いのは、よりそういった気分の重さを引受け

ざる負えなくなる環境のせいもあるんだろう。

われわれはロックスターのような成功者は金も人気もたっぷり手に入れ自分らより幸福でそ

んな辛さなんてないんじゃないか、って思いがちなんだけど、多分逆なのだ、成功者たちに

は次々と色々な期待が寄せられ、それにちゃんと応えようとする彼らの、悩みと辛さは常に

増大して行くのにくらべ、期待されないわれわれ無名の者たちは実に楽ちんなのだ。




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