6/25のねこさん 文は田島薫
ねこ王子
土曜日にさいたまへ帰って来たんだけど、まだねこさん見てないんで、先々週の金曜日、
茨城で見たねこさんの話。遠方のスーパーの帰り牛舎の手前の道に入ったところ、左手
にある畑、たがやしたばかりの広い黒土のまん中に薄茶の毛の長いライオンに似た中く
らいの大きさのねこさんが立ってるんで、ながめてると、こっちをちらっと見てから、
視線をはずし、こっちへゆっくり歩いて来る。やがて私の近くを通って、畑の向かいの
家のこれまた広い庭にゆっくり歩いて行く。歩調を変えずふり向きもせず、どーどーと
歩いて行き、向こうの母屋と手前の物置き小屋の間へ入って行こうとする直前、ちらっ、
っとこっちを見た。
ぼくはこのへんじゃこわいものないね、こ〜やってあたりながめてみても、あっちの方
の芝の上で大勢なんか食ってるカラスだってへっちゃらだし、人間だってぼく見て、り
っぱだ強そ〜だ、って言ってるよ〜な気がするし。うわさをすれば、ほら、びんぼーく
さい自転車止めたびんぼーくさい人間がぼくを見て感心してるよ〜だ。よし、じゃ、ち
ょっとサービスしてぼくのりっぱさを見せてやろうか、ほら、こーゆっくりと落ち着い
て歩いてくぼく、ん〜ん、い〜ね〜、りっぱだね〜、育ちもい〜ね〜、つよそ〜だね〜、
いやいや、まいるね〜、って言いながらも歩くスピードをゆっくり、ってことが大事な
んだ、ここだけ気をつければ大丈夫、ってゆ〜か、ぼくはそんなことは気をつけなくて
も自然にできちゃうんだった、とかなんとか言ってる間につきあたりまで来ちゃったね
〜、あのびんぼーにんはちゃんと感心してずっと見てたかな?ちょこっと今度は気づか
れないぐらいすばやく、あっちふり返ってみっか、せーの、ちらっ。