2/28のしゅちょう 文は田島薫
(反逆精神について)
写真家の蜷川実花さんが少女の頃、父である舞台演出家の蜷川幸雄さんと雑踏に一緒にいた
時、ほら、向こうから大勢の人が歩いて来るだろ、そしたら君はその逆方向へ歩いて行くよ
うな人になりなさい、ってような意味のことを言われたそうだった。
これが彼女の創造精神を育てたひとつの力になったようなんだけど、考えてみると、この言
葉には、なるほど、と思わせる深い意味があるのだ。
大勢の人と違うことをやれ、って言葉を、そのまま表面的にとらえれば、とにかく人が黒と
言えば白と言う、って単なるあまのじゃく、になれ、って風にも取れるんだけど、多分、そ
ういう意味ではないのだ。
人ってものは、ほっておくと楽な方へ流れてしまうもんだ、って認識がまずあって、常に自
分が本当に感じてることとか、考えることはなんだ、ってことを確認して、それに正直に生
きて行くのがいいんだ、ってことなんだろう。
友だちづきあいなどでも、何人かまとまった人数になると、なんとなく、みんながこっちの
方向でいいんじゃないか、って賛同してた時、どうしても、自分ではそれに納得してなかっ
たとしても、反対したり、その理由を説明したりするのは、みんなの気分を害したりしそう
だし、説明したり主張しても通らないかもしれないし、第一面倒だ、ってことで、合わせて
しまう、ってようなことがよくあるんじゃないかと思う。
ま、自分が反対する内容が、みんなのためにならず、単に自分だけに都合のいい話だったら、
それはみんなに合わせる方がいいはずだけど、それがみんなのためであり世の中のためであ
り、みんながいいと思ってる方向には、それと逆の弊害があると信じられるんなら、ひとり
でもそれについて反論した方がいいだろう。
芸術表現なんかだったら当たり前で、人に合わせてていいわけはないんだけど、ふだんの社
会生活なんかだと、なるべく自己主張しないでみんなと合わせておこう、なんてみんなして
考えがちなんだけど、そんな考えで小さな妥協をくり返してるうちに、日本全体が戦争に行
っちゃって、それについてもなんとなくみんなでそれを喜んじゃったら、最後は大惨事、っ
てことがあったことを忘れないようにしたいもんだ。
戻る