9/20のしゅちょう 文は田島薫
(美の本質について)
テレビで93才になる画家の掘文子さんの特集があり、再放送で2回めだったんだけ
ど、つい惹き付けられてまた見てしまった。
疲れきったような悲しそうな顔をしてよぼよぼとやっと動いてるような老人の姿や当
人のその辛い過去の人生についての語りにもそれなりに味があるんだけど、掘さんの
ようにイキイキとしたちょっといたずらっぽいような瞳での語りや、自分の現在進行
形の仕事や果てしのない未来に向けた好奇心や向上心を見せられると、現在現役の若
者だろうが中堅だろうが、まだそこまでの自覚や仕事ができてない未熟者なのだ、っ
て感じさせるような爽やかさがある。
掘さんは老年になるまで画壇できっちり評価されたことはなくて、ただ一般の人々が
いいと言ってくれるので十分満足だと。
掘さんは、ただ自分の存在についての根源的なものを探究する科学的好奇心が強くな
り、宇宙や自然科学の本ばかり読み、絵画についての本は全然読まないんだと。
自然観察やそういった読書によって、その形状や色の素晴らしさや神秘について知り
それを表現することが楽しくてしょうがなく、ますますのめり込み、学ぶほどに分か
らないことが増えてくる、って言い、うれしそうに顔を輝かせるのだ。
絵画は人生の苦悩を表現するものだ、って考えたり、画壇での地位を得ることが最大
の目標としてそれにかなわない自分を嘆いたり悩んだりすることで人生を費やす画家
も多くいて、それはそれでひとつの生き方なんだろうけど、そんなこた知ったこっち
ゃない、と自分の感受性だけを信じまたそれで十分として、自然の美しさを喜びとと
もに表現することに専念する画家がいてわるい理由はないだろう。
掘さんいわく、美はけっきょく、生きてる、ってことの中にあるんだろう、って。
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