3/8のねこさん 文は田島薫
うまちゃんおちつかない
先週のある朝、ゴミを出しに道路に出ると、となりのバレエ教室の先生である奥さん
もゴミ袋持って向こうへ歩いて行く後ろ姿が見えた。バレエ教室の玄関前には、どう
やら、うまちゃんがいるようだったんで、通りがかりに立ち止まって、よ、うまちゃ
ん、って声かけると、ちょっと離れたとこで少し固まって困ったような顔をしてから
ゆっくり玄関前の2段ほどの階段に上がり、開いていいたドアの中へ入り、家の奥へ
どんどん歩いて行ってしまった。
で、あきらめてゴミ置き場の方へ歩いて行くと、向こうから用を済ませた奥さんが戻
って来たんだけど前向いた顔には花粉症の大きなマスクがついてた。
私も同じ用を済ませて戻って来るとバレエ教室の玄関前でこちらに背を向けてしゃが
んだ奥さんとその先にうまちゃんの姿が見えたんで、奥さんの肩越しに、うまちゃん
に、おいおい、って声をかけたら、こっちに気づいたうまちゃん、また奥の方へ移動
して行ってしまった。奥さんも私に気づいたらしく、逃げちゃうのよね、って言った。
おかーさんがゴミ出しに行くみたいなんで帰って来るまでひなたぼっこしながらここ
で待ってよ〜、って思って、る、と、おいおい、またとなりの人出て来ちゃったよ。
こっち来てまたなんか言ってるぞ。え〜と、そだ、ぼく、家ん中に用があったんだっ
た、って感じでこう何気なく玄関中入って行く、どんどん入って行く。
さてあの人行っちゃったろうし、今度はおかーさん帰って来るから出て行かなくちゃ、
でも、ゆだんはできないぞ、あの人また戻って来るはずだからな。帰って来たおかー
さんが、おいで、って言ってるんだけど、今はちょっと難しい事情があるんです、ほ
らほら、あの人が帰って来ちゃった。で、ちょっとぼくはなんとなく玄関の方へ歩い
て行きたい気分なんだ、って感じで、ゆっくりと、と、と、と、と。