6/28のねこさん 文は田島薫
完璧くろさん
先週末ごろの午後、事務所で新しいパソコンソフトの使い方をテキストに沿っておさらい
しながら、もう納め終わった仕事に、こうすればもっと簡単だったんだ、などとわかり、
あっそっか〜、って間抜けな顔を、床の先にある網戸の方に向けると、雑草の間に小さな
くろねこさんがいて、なにかもぞもぞ身体の向きをあちこち変えてるのが見えた。
間もなく気に入った足場が決まったらしく、顔を上げてほっとしたような目と、私の目が
合い、くろさんの方はちょっとびっくりした目に変わったところで、また身体の向きを変
えて小走りに、こっちの目の前から消えた。
ぼくは人間の家族とこないだ引っ越して来たんだけど、部屋にまだトイレの用意がないも
んで、時々外に出されちゃうんだけど、いい場所があるね〜、大自然だね〜、木でできた
馬小屋みたいなもんのこのあたりが、道路からも見られないし、バツグン。よいしょ、こ
っちの方におしりを、いや、ちょっとこの角度の方が、まてよ、こうまわってみて、う〜
ん、どの角度もそんなにわるくないんだけど、完璧を求めるぼくとしては妥協は許さない、
っつーことなんだね〜、ま、でも、あんまり遅くなると、こんどは家に入れてもらえなく
なっちゃうおそれがあるし、そーなっちゃうと、ぼくの完璧主義、っていったい、なんの
ためのもんになるんだ、ってことで悩むような事態にならないとも限らない、っつーわけ
で、このあたりで、きょうのところはよしとしようか、って、顔を上げたら、なんだか、
馬小屋から、頭わるそーな丸顔の馬が見てるね〜、あれ、人間か、なんだ、急に居心地わ
るくなっちゃったね〜、しっぱいしっぱい、完璧にしっぱい。