11/2のしゅちょう 文は田島薫
(蜷川幸雄のクリエイティビティについて)
演出家の蜷川幸雄さんは、今70を何年か過ぎた年齢なんだけど、内外数々の独創的な
舞台演出が評価されて、数々の受賞暦もあるのに、まだ自分は納得した仕事ができて
ない、って言った。
その舞台を観た世界じゅうの客席が大きな感動に包まれるような作品を自分は創れる
はずで、これからもそれを目指すんだ、って意味のことを話していた。
一度評価され有名になった芸術家は、たいていその自分の表現のスタイルに誇りを持
ち、それを守り通すことで大御所になって行くことがほとんどのように見えるのに、
超一流と言われる芸術家は、どうも、それと違う考え方をしてるようだ。
蜷川さんは、いつも新しい作品に取り組む時、それまでの自分の仕事のスタイルや業
績は考えずに、自分をできるだけ白紙にするのだ、って言った。表現についての新し
い考え方や可能性について常に心を向けているのだそうだ。
創造は破壊から生まれる、とはよく言われることではあるんだけど、自分が積み上げ
一定の評価を保証された方法を捨て去る、ってことでいざ、やってみろ、って言われ
てやるには普通なら勇気がいりそうだ。
しかし、本当に創造することに情熱を持てる人間には、仮に、結果、世間からの評価
が得られないものになったとしてもよしとする、当然の覚悟があるようなのだ。
きっと、本当の創造ってものは、失敗を恐れず常に自分の心の欲する表現を一番大切
に考えてつくり続けるものにだけ可能になるのだろう。
それは、例えばピカソやマイルス・デヴィスやジミ・ヘンドリクスが証明している。
蜷川さんはそういった超一流の芸術家のひとりなのだ。
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