3/5ののらねこ 文は田島薫
春のねころび
もはや3月になって、風はあるものの暖かな朝、出勤して階段上がって行きなが
らとなりの建物のベランダ見ると、このところいつもいるブラッキーがいつもの
場所に寝そべっているんだけど、いつもなら呼びかけた後目を合わしても、無愛
想ににらむだけなのに、きょうはめずらしく、こっちの顔をじっと目で追いなが
らこころなしか、何か期待するよーな目をしている。
ははん、きょうは腹減ってて、ココア食堂によろしくお願いしたい、って気分な
んだな、と判断し、すぐに皿洗って、水といっしょに、エサ盛ったガラスの皿を、
こっちのベランダの手すりの上からかざしながら、ブラッキー、って声かけたら、
ちらっ、っとこっちを見ただけで、ふん、って無関心を装って、寝たふりをした。
さっきは思わず本心さらしちゃったことに、気がついてないようだった。
しばらくしてドアの外出てみたら、ベランダにブラッキーの姿はなく、皿のエサ
は減ってたから、ちゃんと食べて行ったのだ。
さっきは、彼の歌声のようなのが聞こえたから、春のガールハントの季節で、出
かける前の腹ごしらえを急いでたんだろう。
路地の見回りに行ったら、北側の小さな庭の家の庭に、くろとらが発泡の箱の上
で、寝るより楽はなかりけり、しゅんみんあかつきをおぼえず、ってよーなひと
のよさそうな顔(ひとじゃない、ってば)で寝そべってるのが、路地で見たねこ
さんのすべてだったから、たいていのねこさんたちはどっかへガールハントに出
かけたのだろう。