11/15ののらねこ 文は田島薫
間のわるいバットマン今朝は少し寒くて薄暗い空気の中をかなりの雨が降っていた。
空になってた皿にエサを入れたけど、こんな天気の中3階までの外階段を上がっ
て来るには、お客さんにもちょっと「気合い」がいるだろう。
カラスさんさえ、どっかで雨やどりしているのか、姿が見えない。
先週は、だれか来たかな、ってドアを開けたらちょうど上がって来た新人の茶とらと目があって、慌てて階段を下りかけた彼に、いーよいーよ逃げなくて、って、
声かけたら、階段の途中で振り返ったポーズで止まっていたので、上がって来て
エサ食べなさいよ、ってもう一度すすめてひっこんだら、間もなく上がって来て
食べてるようだった。
週末ぐらいに、外でたばこ吸って戻って来たシャンさんが、茶とらが来てるよ、耳のつぶれたやつ、って言った、彼のはそういう耳が垂れた種類の混じった雑種
らしく、小さめの耳で片方だけ中途半端に垂れてるのだ。
あれ、逃げないの?って聞くと、もう彼には慣れているらしく、少しよけるしぐさ
するけど、離れてたばこ吸ってれば、いつも気にせずにエサを食べてるそうだった。
ちょっと見てみるか、って、ドアを開けたら、2週間ぶりのバットマンがちょうど階段を上がって来て、一番上のステップの手前で止まり顔だけ見せて、エサ皿前の
茶とらとぴったり目と目が合ったところのようだった。
ふたりともじっと見合ってたけど、びっくりして固まったままのバットマンに
対して、上にいて少し余裕の茶とらは追い払いの態度を示そうとした。
こっちは久しぶりのバットマンの方に気が行ってたので、思わず、おーバットマンって声かけたら、こっちに気がついた茶とらはベランダの広い方へ逃げて、離れた
とこから、こっちを見ながら、この人はどっちの味方なんだろ、って顔をしている。
バットマンはくるっと体の向きをかえて階段を下りて行き、バットマン、カンバック
って呼んでも、振り返らずにねこけもの道を向こうへ去って行った。
絶壁に追い詰められた怖い思いのネコトラウマを長きに渡りかかえ、やっとそれも癒え、よし、って、2週間ぶりに思いきって上がって来たら、これだもんだで、
絶望的な気持になり、旅に出よう、って思ってしまったかも知れない。