3/29ののらねこ 文は田島薫
ちゃとらが歌った桜も間もなく満開、春まっさかりのいい天気、なのに、か、だから、か、
あたりにお客さんの姿が見えない。
朝1のシャンさんが空だった皿に入れておいたエサは、いつの間にかなくなってるから、
来てることは来てるんだけど。
姿が見えないお客さんたちのためにエサをまた入れておく。
お客さんたちは暖かくなって、うきうき遊びまわって忙しいのだろう、恋の季節もあるし、そういえば、先週は事務所のガラス戸の向こうでちゃとらがオペラ風の発声で多分、恋の歌
らしいものを歌っていた。
どうだいぼくって、かっこいいだろう、歌だって美声だし、って、気どって、恋人募集の
プロモーションをやっていたのだろう。
ガラス戸の上の透明部分からのぞくこっちに気づいた彼は、慌ててとととと、とベランダの
向こうへ、今度は少しかっこわるく逃げて行った。
ちゃとらのように、だれに向かって歌ってるのかわかんないような、ひょっとすると、本番に向けて、こっそり発声練習しに来てただけなのかも、といったお客さんもいるけど、
たいていのお客さんは急いで来て、急いで食べて、急いで出かけて行くのだ。
ま、そういう季節だということで、しかし、全然姿見えないお客さんのことを、文章に書かなきゃいけない私もなかなかつらいもんだ。