6/14ののらねこ 文は田島薫
ちょっとの出会いきょうは気持ちのいい、からっとした晴天。
知らないうちにちょっとはエサが減ってたけど、お客さんはそれきり、
後はだれも顔を見せない。
昼食後、歯みがきしつつ地上を見下ろしながらベランダをひと回りした。ぽかぽか陽の当たった道路端の植木鉢の陰にも、バイクの陰にも、向かいの
家の隙間にもお客さんの姿は見えない。
2つ目の角を曲がって、あきらめかけた時、路地をあのくろとらに似てる
けど違うくろとら(顔つきがのどか)が壁とバイクの間を、警戒姿勢し
ながら忍者のようにぬって行くのが見えた。
お、と声をかけようとしたら、歯みがきが口ん中にあることに気がつき、ちょっ、ちょっ、と音を出してみたら、立ち止まり、何だ?とふり返り顔を
こっちへ見上げてから、すぐまた向こう向いて歩きだした。
で、また、ちょっ、ちょっ、向こうの角を曲がって行きそうな手前で、
立ち止まって、またふり返り、しばらくこっちを見上げてから、角を
曲がって消えた(一部始終10秒間ぐらいの出会いだ)。
すずめさんと、カラスさんの他、それがきょうのお客さんのすべてだった。