連載●文はクボユーシロー
貞熊現代アート研究所5
(アーティストと金)
テレビで『自分を表現する仕事がしたい、たとえば芸術家とかになりた
い』と言った娘に母親が『生きてるうちは作品は売れないよ』と言って
た。芸術家=貧乏と相場は決まってる。古今東西、それでもアートを目
指す若者は減らない。
芸大出の高校の美術教師は『売り絵を描いちゃおしまいだ』といつも
言ってた。しかし僕は『自分の描いた絵が高く売れればそれに超したこ
とは無いだろ』と思ってたが先生に面と向かっては言えなかった。高校
時代の美術の時間、生徒には適当に花かなんかを描かせておいて先生は
暖かい教官室でソファーに横たわりパイプをくゆらせながら絵を画いて
た。そういう先生を見るたびに『美術教師じゃアートは無理だな』と
思ったし、そうゆう環境に羨望や憧れなどまったく無かった。むしろ
『この先生は安定した公務員を離れ、絵だけに集中したらすごい画家に
なるんじゃないか。このままじゃ生殺しだな』とマジで思ったりした。
でも彼には彼の人生観や生活があるし大きなお世話だな、まったく。
芸大入学を3度チャレンジしてあきらめ、シベリヤ経由の安いルートで
パリに行き画家になった高校の先輩がいる。はじめは赤貧と隣り合わせ
のパリ生活だったらしいが、日本がバブルの時に画商の下請けでパリの
画家仲間達の絵を大量に日本に送り込む仕事をした。しばらくして日本
に帰ってきた彼と会ったがシャネルの毛皮コートを着ていた。銀座の大
きなデパートで開かれた彼の個展の作品ものんびりした暖かそうな絵
だった。 つづく