連載●文はクボユーシロー
ユーシロさんの 食い物話 9
(紫陽花)
6月17日、梅雨真っ盛りあちこちでアジサイが咲いている。『湿った風
の背中越しに君の好きな夏が来ます……』グレープの『ほおずき』がな
んとなく出てくる。
なんという線か名前は知らないが赤羽から池袋に直通の電車がある。こ
の線はかつての貨物専用線を使ってるらしいが途中、王子を通過する。
この時期には飛鳥山の下の線路っぱた300メートルぐらいにずうっと紫
陽花が咲き乱れている。梅雨の頃になるとなるべくこの線に乗り西側を
見ている。運転手の中に紫陽花好きがいるのか、この場所でスピードダ
ウンする電車もある。王子を通過する主な線にはほかに2つある。京浜
東北線と尾久から上野に行く線である。前者は花から遠過ぎてよく見え
ない、後者の線は今度は近すぎて眼が痛くなっちゃうから全然だめ。
和菓子に『紫陽花』と言う名の菓子があり、この時期に茶道で使われる
らしい。その形が紫陽花そのまんまでべたなネーミングだといつも思
う。侘びの世界なんだから少ししゃれてほしい、たとえば『飛鳥山』と
か。 つづく