6/21のねこさん 文は田島薫
あやしまれちゃうぞ
土曜の昼過ぎ、自転車で食料の買い出しに行く途中のねこよこちょうにある家の小さな庭
に小さいとらねこさんがいた。
小さな花壇のわきの駐車スペースに銀色の小型乗用車が止めてあって、そこをひとまわり
して向こうから歩いて来たところを道路側から自転車を止めた私が待ち伏せた。
ねこさんこっちに気がつくと立ち止まって、じっとこっちを見つめるもんで、私も見つめ
た。なんにも言わずに見つめ合ってるのが、なんだか退屈したんで、うしろの家の方にな
んとなく目をやると、ねこさんもつられてふり返った。そしたら、ちょうどタイミングよ
くそこの小さな家の廊下のガラス戸が開く音がした。ねこさん、ささっと、庭を突っ切っ
てからとなりの家のへいに上がりそのままそっちへ飛び下り、こっちをふり向かないまま
となりの家の庭の奥へ行って消えた。
ぼか〜、ここの家の庭のちょっと日陰んなった車のわきが、なんだか好きなんだよな〜。
きょうも、ここのすべすべのタイヤによりかかって昼寝でもすっかな、って、あれ、だれ
かがこっちをじっと見てんね〜、またねこ好きかな〜、うっと〜し〜ね〜。なんですか?
なんか用ですか?ま、しばらくにらめっこの相手してあげててもいいんだけど、ちょっと、
あんた、ひとんちの買ったばかりの自動車の前で中のぞきこんでるように見えるから、あ
やしまれちゃうよ〜、お、家の人が気づいたかな?ぼくよりそっちの方を気にかける感じ
は、よけいあやしそうに見られちゃうね〜、ぼくにはただのねこ好きってわかってるんだ
けど、家の人にはぼくが見えないから、やっとローンで買った新しい車をあやしいやつが
じっと見てる、って風に見えちゃうじゃないか。しょーがないな〜、ぼくが出てってやる
よ、ほら、ぼくですよ、ねこですよ、あの人はあなたの車をねらってたんじゃありません。
ぼくを見てたんですよ〜、安心ですよ〜、って。いいよいいよお礼の言葉は、ぼくは行く
からね、今度から気をつけなよね。