4/12のねこさん 文は田島薫
見合ってる
先々週の朝、親戚の法事に参加するために家人と駅への道を歩いてたら、時々ねこさ
んたちを見かけるアパートのある横道のまん中にねこさんが中腰で立っていた。
小さなとらで、目の前のアパートの少し高くなった1階のベランダの方を見上げてて、
その視線の先のベランダには背広にネクタイの紳士が立ってねこさんの方を見てた。
ちょっとわれわれも立ち止まって、それを見てたんだけど、どちらも動かない。
これがわれわれがその場から離れるまで10秒ばかりの「できごと」のすべて。
さて、前のアパートのベランダにいつも出しておいてもらってるごはんでも食べに行
くとすっか、えーと、あれ?皿がまだ出てないのかな?いつもなら食事のおいしいに
おいがしてるはずなのに、きょうはしてないな〜。あそこのおばさんきょうは出して
くれんの遅いようだね、ま、ちょっと待ってよーかおばさん出てくんの。ごはん出た
らすぐに行けるよーに、ここで見張っちゃおう。まだかな〜、あれ、おばさんじゃな
くておじさんが出てきちゃったぞ。きょうはおじさん会社遅くていいのかな行くの。
おばさんはいつもおじさん送り出した後にぼくたちのごはん出してくれるから、おじ
さんはそのことに反対してて、おばさんはいつもおじさんに内緒で出してくれてるの
かもしんないね〜。とすっと、おじさんがまだ出かけないもんで、おばさん家ん中で
困ってるんだなきっと。お、おじさんがこっち見てるぞ。じっと見てるね。ぼくがな
んで道のまん中で中途半端な姿勢してるのか、不思議に思ってるようだね。
こうやって見合っておたがいに固まってる、ってのも居心地わるいもんだね〜。や〜
困った。おじさん、そんなとこで不思議がってないで、早く会社行きなってば。