3/2のねこさん 文は田島薫
走るねこさん
先週の晴れた日の午後、都内へ用事で出かけた帰り、ついでに食料の買い出ししよう
と思い、駅からの道を、いつものと一本それた広い車の往来する方を選んだ。
なだらかな坂を上がって信号のある交差点が赤だったんで、手前で止まってから、左
右前後に珍しく1台の車も見えなかったんで、そのまま信号無視して歩きだしてたら、
向こうを、全速力で走って道を横断するチーターのようなねこさんが見えた。
ねこさん、そん時に車はいないんだからあんなに走んないでも、って思うんだけど、
ねこさんの立場から見ればおそろしく視点が低いわけだし、そうとう近くまで車来て
ても判別がしにくいわけで、いつも決死のダッシュやってる、ってわけなんだろう。
以前、走ってる車の前輪と後輪の間を走り抜けて行ったねこさんを見たこともあるし、
ねこさんにとって、車の走る道路横断は、戦場で銃弾の雨ん中走る兵士と同じぐらい
の緊張を強いるもんなのかも知れない。
見てると渡り切ったねこさん、ふっと、身体をゆるめるように止まってから、今度は
安心したように先の路地へゆっくりゆっくり歩いて行った。
ねこさんのダッシュ出発地点まで行って到着地点方向を向くと、道路の向こう側の路
地を行くねこさんの後ろ姿が見えた。
ゆっくりゆっくり歩いて行って、最後は下り坂になってる路地の地平線(?)に尻と
背中をゆっくりゆっくりゆらしながら沈んで行った。