7/26ののらねこ 文は田島薫
ここんとこほとんどだれもお客さんは顔を見せないんだけども、先週末はバットマンだけが何度も事務所のある3階のベランダまで上がって来た。
あたりをうろうろして、ちょっとエサを食べるようなふりをして、ひと粒
ふた粒をかじってみてからベランダのすみっこへ行って、昼寝してみようと
して、あまり落ち着かないな、とすぐに階段を下りて行くのだ。
おい、って声をかけると、いつもちょっとこっちに視線を送って意識してる
くせに、無関心そうにして、鼻をさわろうとすると帰って行っちゃうのだ。
彼はにせのらねこだし、小柄なのんきもの、といった感じなんだけど、人にもねこにもものおじしない性格で、でも決して敵対的ではなく、威嚇してる
ようなとこは見たことはないし、気が強いというよりも、どちらかというと
親愛的性格で、他からの敵対心に対して鈍感なんじゃないかとも見える。
それが逆にねこ同士から見ると強い大物の風格に見えるのかも知れない。
そんなわけか、以前も自分よりでっかいねこに、無表情で迫って行って、
追い払ったところを目撃したことがあるから、けっきょくバットマンは他の
お客さんをみんなうちのエサ皿から追い出しちゃったのかも知れない。
何度かドアを開けた時に帰りかけのバットマンに遭遇した後、仕事を終えて帰ろうと下の道に出たところ、またバットマンがひとりで道の端にうずく
まっているのが見えた、おー、と指を出すと無関心そうに少し後ずさり
しながらも鼻をさわらせた。
その日会ったお客さんはひとりぼっちのバットマンだけだった。ひょっとすると、彼もひとりぼっちが寂しい、って思ってたのかも知れない。