2/9ののらねこ 文は田島薫
遅い朝、出勤する途中、いつもの路地から地蔵通りへ出る真正面にある靴屋の中にバットマンがいて、店には人がいないんだけど、ひとりでのそのそとこっちへ出て
来るところだった。
お、バットマン、って声をかけたんだけど、ちらっとこっちを見ただけで、誰だっけ
かなこの人は、って顔で足元を小走りにすり抜けて行った。
おいおい、人んちあんなに遊びに来てんのに、ねこさんっていうものはいつも
こういうふうな、さっぱりした性格なのだ。
通り過ぎたところをもう一度おいおい、って声をかけると、立ち止まって振り返って、こっちを見て、ちょっと思い出したような顔をしている。
あ、ひょっとするとあそこの人だったか、そーかそーか、で、何の用なのかな、って
いった感じだ。
しばらくこっちも何も言わずに見ていると、何だ用ないみたいだな、ってまた向こう
を向いて歩きだすので、またおいおいおい、って呼んでみると、また向こうの方で
立ち止まって、こっちを見てる。
しばらく待って、なんだよやっぱり用ないみたいじゃないか、こっちは忙しいんだから、
って目で言ってから、右側の路地へ消えて行った。
事務所に着いてシャンさんに聞くと、鈴の音がしてたので、エサを出したら、だれかが少し食べて帰ったようだけど、全然姿は見れなかった、そうだった。
忙しく動きまわるバットマンが来てたようだ。