8/9ののらねこ 文は田島薫
あいかわらずお客さんの姿は見えない。先週の木曜日の晩に映画プロデューサーの尾形さんと事務所で飲んで
いると、エアコンを切って開けておいたガラス戸の向こう、共有スペース
のベランダの方からねこさんの喧嘩の叫び声が響いた。
出て行ってみると、ベランダにある仮設住宅の向こう側でバットマンと若とらがもめてるようだった。
おいおい君たちなかよくしなさい、って言って、激しく興奮してる方の
若とらを帰り道の方へ誘導と言うか追い出すようにして、ふたりを引き
離して、おさまったと思って、戻ってまた酒宴の続きをはじめたら、
また、もっと激しいねこさんの大声が響いた。
また出て行ってみたら、今度は声のする方向に若とらしかいない、変だなと思ってそばへ行ってみると、ベランダのフェンスの外側の絶壁のふちに
バットマンがうずくまって困っていた。
前の週に私が若とらに声かけて、それでお互いに気が合ったと思った彼は、事務所周辺のしきりを頼まれたと勘違いしたようだ。
勢いづいた若とらには、さすが大人物のバットマンの風格は効かなかった
ようで、追い詰められちゃったんだろう。
おいおいだめだめ、って言いながら、若とらを帰り道に誘導したら、階段の途中で何度も立ち止まりながら、ふにおちない、って顔をして、帰って
行った。
あの人の考えてることはわからん、って思ってることだろう。