●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさん、気分をリフレッシュできたようです。



忙中閑あり


一人暮らしだった義姉の突然の高齢者施設入居に伴う後始末に追われる日々。

愚痴たらたらの私を慰めようと、娘夫婦が四万温泉に一泊のドライブ旅行を

誘ってくれた。

久し振りの遠出に私は大喜び。

今は東名高速道路から簡単に八王子を通り、関越自動車道に入れる。天気も

上々で都会から田舎の景色へと移り変わっていくのを大いに楽しんだ。

長いこと走ってそろそろドライブも飽きてきた頃、宿に直行せず、四万川ダ

ムに寄り道をすることにした。四方八方山に囲まれ、小さな奥四万川をせき

止めて造った人造湖である。

湖面の色を見て私はあっと驚いた。

なんと見たこともないような美しいターコイズブルー。山から爽やかな風が

吹き渡ってきて、湖面はキラキラ輝き、その美しいこと!

そして周りを見渡しても観光客も見当たらず私たち三人だけ。静かである。

何か荘厳な気持ちになって、最近の義姉の関する煩雑な後始末もコロナも些

末な出来事も忘れた。

せき止めているコンクリートのダムの上はかなり高く、右に美しいブルーの

水をなみなみとたたえた湖、左に深くゴツゴツとえぐられ、蛇行する川。

高所恐怖症の娘などはとても覗き込めない、と怖がった。

早めの宿に着き、早速温泉三昧。

四万温泉は山あいに流れる川に沿って旅館が並ぶ鄙びた温泉街である。

我々の泊まった宿はかなり奥まった小高いところにあり、すぐ下には「千と

千尋の神隠し」の舞台となったという宿があった。今は人気スポットとなっ

ていて、我々も夕飯が済むと夜散策がてら見に行ったのだが、川を渡る橋に

は雪洞が点され、昔ながらの宿の雰囲気を盛り上げていた。

夜、さすがに外は寒い。

宿に帰ると温泉好きの婿さんは、露天ぶろなど六つもある温泉場を全部入る

のだと張り切った。私と娘は半分入れば十分だ。

一泊二日のささやかなのんびり旅。良い気晴らしとなって、これから粛々と

義姉の煩雑な手続きをこなしていこう。


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