●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんには好みの雰囲気だったようです。



シリーズ 住めば都 4

古本屋みっけ!


うっかり見落とすところだった。

その古本屋は地蔵尊の隣にあったのだ。

あの派手な身代わり地蔵尊ののぼり旗に気をとられていて、そのまま通り過ぎても

おかしくない。

看板もなく、道路から一歩引いたくすんだ店構えで地味な佇まいだった。

店の外に100円均一の本を並べたワゴンが2台と無造作に段ボールに詰めた古本

があったので、それとわかった。

ブックオフが幅を利かすいまどき、こうした街中に古本屋があるなんて珍しい! 

私はまずはワゴンの中を覗き品定めをした。主に古い文庫本である。

それからいかにも本漁りをしているふりして中へぶらりと入る。

5坪ぐらいの店内は人の気配もなくただ薄暗く、本棚が縦にいくつもあって内部の

様子はよく見えない。あまり整然とはいえない店内で、正直言って本好きでないと

入りにくい雰囲気だ。

ざっと見渡しても、品揃えはノウハウものや文学全集や趣味の専門書など広く浅く

のよう。

なんとなく店の匂いがする。それはカビと埃と知識と歳月のゆかしい匂いとでもい

うべきか。

私は一見さんなので緊張し、選ぶゆとりもなく、とりあえず一冊の本を選んだ。

会計しようと奥へすすむと、細いカウンターがあってそこに人がすわっていた。逆

光でよく顔はわからないのだけれど、どうやら若い男の人のようだ。

やはり本を読んでいたのかもしれない。私が前に立つと顔をあげた。”いらっしゃ

い”もいわない。

こうした古本屋の主人には偏屈者が多いらしいので、そんな態度はかえって本の価

値を上げることに作用するものだ。

「これください」と私が言うと、その人は小さな声で値段を告げ、お釣りを渡すと

き、やはり小さな声で「ありがとうございます」といった。

私は本物の古本屋だと安心して、また来ようと思った。


  薄暗き古書店の匂い秋めけり  


戻る