●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、アリガタイモノも発見したようです。



シリーズ 住めば都 3

身代わり地蔵尊



今仮住まいしている小さなマンションの前は旧綱島街道である。一方通行のせいか

通る車は少なく、店もまばらで、発展するには中途半端のようだ。

沿道にはシャッターを下ろした店や庭のない住宅やアパートが続いているだけで、

散歩するには味気ない道路だが、そのまま真っ直ぐ歩いて行けば駅に辿り着く。

たまにはもう一方の最寄り駅を知ってみようとぶらぶら歩いてみた。

途中、くすんだ町並みの続くなかで、突然、たくさんの赤い幟旗がはためいている

のが見えた。

なんだ、なんだ、あの派手さは! 

近づくと、2坪ぐらいの敷地に “身代わり地蔵尊”と白く染め抜かれた赤い旗をぐ

るりと立てた社だった。玉砂利を入れた敷地の中に小さいながらも社が築かれ、真

ん中に小さな祠があり、中に赤い帽子に赤い前掛けのお地蔵さまが二体。古いらし

く細部の形はすでにない。だが、お花もお供え菓子も新しく、なかなか手入れが行

き届いている。

田舎でしか見られないと思った野仏がこんな町中で! しかも華々しく奉られてい

るとは!

どうやら、この町は、先日訪れた慈雲寺といい、この祠といい、結構古くから人々

が築いてきた歴史があり信仰があるらしい。

傍らの石に刻まれた由来の文字を読むと、

”昔、尾張の国からきた幼い兄妹が辻強盗に襲われ、咄嗟に地蔵尊の陰に隠れたと

ころ、強盗の手許が狂って、持っていた太刀でお地蔵さまの首を切り落としてしま

い、その刀は折れ、その切先が辻強盗に突き刺さって死に、兄妹は危うく難を逃れ

た。以来、土地の人はこれを身代わり地蔵尊と呼び、信仰するようになった“とい

うようなことが刻まれていた。

私は、この縁起を読んで”しめた”と思った。 

今、世界中の人々がコロナで苦しんでいる。このお地蔵さまに身代わりになっても

らおう、と思ったのだ。

出口の見えない長引くコロナ禍。

“困った時の神頼み”という言葉があるように、いくら科学の発達した現代になっ

ても、“藁にもすがる思いで”こうした遠い昔から地域の守り神として愛され、大

事にされている素朴な民間信仰に頼りたくなるではないか。
 

  秋立ちぬ地蔵の赤き帽子かな


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