映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、中国製問題作に感じ入り心騒いだようです。




『少年の君』


最近知り合ったシンガポールの映画人が、この作品に関わっていると言う。それなら観

なくては! と、何の前知識も無く早速観に行った。タイトルから察するに、ティーンエ

イジャーの成長ものかな、ぐらいに思っていたら、意外な内容、意外な骨太さだった。

骨太な映画を好む者としては、掘り出しオススメ作品と言って良い。


成績優秀で進学校に通うチェン・ニェンには、家を離れて詐欺行為を働く母親しか身内

がいない。ある日、いじめを苦に校舎から飛び降り自殺した学友に、皆がスマホを向け

る。見かねて死体に上着をかけてやると、今度は自分がいじめの対象となった。失意の

中、不良少年シャオ・ベイが受けていた集団暴行にまで巻き込まれてしまう。孤独な二

人の魂が惹かれ合ううち、取り返しのつかない事件が起こり…。


中国における社会問題と言えば、ウイグル、法輪功に対する虐待や拷問、人身売買、強

制労働を真っ先に思い浮かべるが、本作ではいじめや教育問題を浮き彫りにしている。

中国政府にとっては、言ってみれば不都合な真実だろう。検閲の非常に厳しい中国でよ

く作られたものだと思う。

いじめっ子役の振る舞いが支離滅裂で、如何なものかと一瞬思ったが、悪意と言うより

不安定の権化の様で、実はこの子こそが中国社会の病巣を体現していたのかもしれない。

主人公のチェン・ニェンは表情に乏しく、心が硬直化している様子で物語が進み(この

女優さんが良いなぁ)、ここぞというところで笑顔を見せる。観る者をホッとさせる一瞬

だが、話はこれでもかこれでもかと転がり、クライマックスが長い。タイトルの意味に

納得したところで終わりかと思いきや、更に先へと進む。起こるべくして起こった殺人

事件。一体誰が裁かれるのか。ラストの設定は中国社会が変わっていくことを示唆して

いる様で、少し希望を持つが、それと同時に作った人たちの身を案じたりする。考えす

ぎかなぁ。


『少年の君』
2019年/135分/カラー/中国・香港
監督 デレク・ツァン
脚本 ラム・ウィンサム他
撮影 ユー・ジンピン
出演 チョウ・ドンユイ、イー・ヤンチェンシー


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