映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、田中泯さんを敬愛のようです。




【HOKUSAI】


久しぶりに劇場で映画を観た! 念願だった『HOKUSAI』だ。大尊敬する田中泯さん

が北斎を演じており、見逃すわけにはいかない。2002年の『たそがれ清兵衛』が

映画初出演だけど、とてもそうは思えない迫力と存在感に圧倒され、以来、ずっと

泯さんの映画を追っかけている。


江戸時代、幕府によって表現の自由が厳しく制限されていた頃、禁を破ってでも自

らの表現を追求する絵師・葛飾北斎がいた。その青年期、勝者になろうと尖ってい

た北斎を刺激したのが喜多川歌麿であり東洲斎写楽の活躍であった。浮世絵版元・

蔦屋重三郎の導きで自らの創作の道に開眼し、武士でありながら戯作者でもあった

柳亭種彦と組んで多くの作品を生みだしていく。齢70歳にして脳梗塞で倒れても立

ち上がり、旅に出て富嶽三十景を描く。90歳を超えてなお、筆を止めることのない

人生だった。


生前3万点とも言われる作品を描き、ヨーロッパの印象派にまで影響を与えた北斎。

「セザンヌは絵画のために生き、ゴッホは生きるために絵画を必要とした」と言っ

たのは高階秀爾さん(元国立西洋美術館館長)だっただろうか。その点、北斎はゴッ

ホに近いと感じさせる映画だった。あの波の絵を着想するシーンなど、言葉になら

ない迫力と熱量にやられてしまう。


老年期の北斎を演じた我が憧れの田中泯さんは、北斎の自画像によく似ている。そ

して泯さんの芝居は、”踊り”だった。鳥肌が立つ。きっと踊りと言われるのは嫌

がるだろうから、身体表現と言うべきかもしれない。


数年前、遂に映画でお世話になる機会を得た…と言っても1度お会いしただけだけ

ど。ドキュメンタリー映画『記録作家 林えいだい』で声を担当して下さったのだ。

そこにも泯さんの拘りがあり、ナレーションはやらない。えいだいさんの著作の

”朗読”をされたのだった。客観を入れず、えいだいさんの主観として身体表現を

されたのだと思う。凄い。


『HOKUSAI』
2021年/ 129分/カラー/日本
監督 橋本一
脚本 河原れん
撮影 ニホンマツアキヒコ
出演 柳楽優弥、田中泯、阿部寛、玉木宏、瀧本美織


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