●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、新緑の墓参に心安らいだようです。



お墓参り


かねがね気になっていた。

ここ10年ぐらいずっと実行していなかった実家のお墓参りである。

実家を継いだ長姉夫婦は今病気と老衰で、その娘が面倒を看ており、墓参りどころ

ではない状況だ。たぶん今年のお彼岸も行っていないだろう。

そこで、私が代参したい、と思っていた。

それがこのうららかな春日和に実現することになった。

きっかけは、東京に住む息子の「車で送っていくよ」の一言だった。

お墓は高尾にあり、車で2時間。久しぶりの遠出である。

お彼岸はとっくに過ぎているので、人影もなく高尾霊園は静まり返っていた。

案の定、お墓は手入れされず荒れていたので、雑草を抜き、木を剪定し、さっぱり

と整えた。

水をかけると黒々と御影石がよみがえり、墓石の横に掘られた父の短歌、


   たたなはる山並み見放く淨き丘

          やすらぎ鎮まる代々の霊

が浮き出てきた。

父の代で新しく造った思い入れの深いお墓なのである。

父は早くから死に対して準備をしていて、「死を疎まず、ひとつひとつ欲を手放し、

かっこよく身仕舞いをして、あの世に逝きたい」というのが考えだった。

花を活け、お線香をあげ、お参りを済ませ、ほっと一息ついた。

小高い丘の上にあるお墓は見晴らしがいい。

目の前に新緑におおわれた山が連なり、ときどき遠く野鳥の声がする。コロナでび

くびくする密の都会とはかけ離れ、まるで、別世界いるようだ。

本来、人間はこうした自然の中にいて、つつましく暮らしていたのだろうに。

うららかに晴れ渡った青空の下、途中のドライブインで買ったお弁当をひろげ、息

子とお墓の前で食べた。家族の絆を感じながら・・・


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