●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、草木が大好きになったようです。
シリーズ散歩日和 9
木の芽どき
以前、仲良し四人グループでよく旅行をしたものだった。
そのうちの一人がとても植物に詳しく、出会う草木についていろいろ説明をしてくれ
たのだが、草木に興味のなかった私は、帰る頃にはその知識はすっかり忘れていた。
ところが散歩を日課にしている今になって、草木に興味を持つようになった。
見慣れた近所で、飽きずに散歩を続けようとすれば、真っ先に季節の変化を告げる植
物を見るのが一番だからだ。
私は「樹木図鑑」や「散歩の花図鑑」などを買いそろえ、散歩の友にした。
近くの菊名池公園には花壇よりも、むしろ木が多い。
例の友人から木を見るときは、まず上を見上げ、枝振りを観察し、そして木肌を触っ
てみよ、と教わっていた。
冬、落葉樹は葉を落とし、その形をさらけだすので、木本来の姿形を味わうャンスで
ある。
気がついたのは、桜が花のイメージと異なり、枝振りが男性的で逞しかったり、紅葉
の枝振りが意外とたおやかで美しかったり、と意外な一面だった。
私の好きなのは欅。
幹からでた枝は意外と細く、上へ上へと空に延びていき、その先端は細かく分かれ、
まるでレースのように繊細なのだ。見ていると気持ちがのびのびしてくる。
そして早春の今、落葉樹の先がほんのり緑がかってきた。
柳の木などは遠くから見ると枝垂れた枝に淡く若草色がぼかされて、繊細な美しさを
見せている。
まさに“木の芽どき”。
俳句の季語にもあり、わたしの好きな言葉でもある。
人間界がコロナだ、オリンピックだ、汚職だとガタガタしているときに、草花や樹木
たちは黙々と確実に歩みを止めることなく、新しい季節を迎え入れている。
一抹の不安もありて木の芽どき