●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、それが新鮮な喜びに感じました。



アフターコロナ 2


歩いていると、誰かから見つめられている気がした。

前から歩いてくる人が歩みを止めた。お互いマスクをしているので誰だか

定かでない。

さらに近づいて驚いた。

元住んでいた家の近所の人だった。

「こんなところで!」

同時に叫んだ。

ここは元居た町からちょっと離れた隣町。

私は、足の悪い彼女がこんなに遠くまで? と意外な気持ちで、彼女の方

も、なんで私がこんなとんでもない場所に? とけげんそう。

私は今、この近くに仮住まいしていると説明し、近くのマンションを指差

した。彼女はこの町にしかない店に買い物へ行った帰りだという。

そんなことから始まって、私たちは延々と立ち話をし、ケータイ番号の交

換までしてしまった。

普段それほど親しかったわけではないのに、お互い意外な場所で会った驚

きと久しぶりの再会に気持ちが高ぶったようだ。

「私、コロナより老化が怖いのよ」

彼女は言う。

「私のやりたいことはみんな不要不急。それを後回しにしたら、なんで生

きてるかわからないわ」

寿命を考えたら、コロナ予防よりもやり残しなく悔いのない日々を過ごし

たいと言う。

なかなか果敢に生きているようだ。

コロナ禍では、行動が制限されるぶん、生き方の取捨選択が鮮明になるの

だろう。


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