映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、お世話になったプロデューサーに感謝のようです。




【生涯現役プロデューサー】


土曜日の朝、お世話になっているプロデューサーの訃報が届いた。ご高齢だった。

丁度新作に取り掛かっているところでコロナ問題に見舞われ、企画はストップ。真

夏の暑さも手伝って体力の限界を超えてしまったのだろう。コロナと酷暑がなけれ

ば今頃撮影していたはずだから、残念でならない。


東宝でキャリアを積み、著名な監督と数多くの作品を手掛けてこられた方だ。東宝

50周年記念作品として作られた『海峡』もその一つ。念願かなってやっと鑑賞でき

たのは数か月前だった。もっと早く観て、撮影時の事を伺っておけば良かった。そ

んな後悔も残るが、常に次回作のことを考えておられたので、何を話しても焦点は

次回作に移って行っただろう。


『海峡』は青函トンネル開通工事に命を懸けて取り組む人々の話で、主役のトンネ

ル屋を高倉健が演じる。作業は困難を極め、数々の事故にも見舞われるが、トンネ

ル屋の執念が実り開通。仕事に使命感と誇りを持つ男の骨太なドラマだった。海底

から100m深い密閉空間(と言っていいだろう)での作業は、観る者の恐怖心を掻き立

てる。出水事故の場面では、ロケ現場で怪我人や死人が出なかったのだろうかと心

配になる。撮影が木村大作だから敢えて言うことも無いだろうが、凄い!


映画を観た後で知ったのだが、実際の先進導坑貫通は本作公開の翌年1983年、本坑

全貫通は1985年だった。青函トンネルの開通は、映画の方が先行していたのだ。と

言うことは、壮大なセットは実際の工事現場そのものだったのだろうか。そうとし

か思えない大迫力なのだ。


「よし、やった!」と言う健さんが素晴らしい。吉永小百合と並んでも喰われないの

は、健さんだけではないだろうか。思えば、健さんも森繁さんも、笠智衆さんも、

既に永眠されている。プロデューサーも加わって、今頃みんなで昔話に花を咲かせ

ているのかもしれないなぁ。


ご存命中にもっと映画を作りたかった。生涯現役プロデューサーとの言葉通り、コ

ロナで外出しにくくなるまでは、毎日出歩き人と交渉されていた。映画化されたも

の、未完に終わったもの、企画を進めていたもの合わせて、私は8本でお世話になっ

た。進行中だった作品は私たちで必ず実現しようと、残された仲間で話している。


『海峡』
1982年/142分/カラー/日本
監督/森谷司郎
脚本/井出俊郎、森谷司郎
撮影/木村大作
音楽/南こうせつ
編集/池田三千子
出演/ 高倉健、吉永小百合、三浦友和、大谷直子、森繁久彌


戻る