●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、ぼっち、について考察してます。



シリーズ 一人暮らしになった(5)

ひとりぼっち


私の生家は印刷屋で、いつも多くの職人がいて、人の出入りが多く、人に囲まれて育っ

た。長じてからも一人で生活した経験がない。

今が人生初めての一人暮らしだ。

なかなか慣れない。自分のだす生活音のほかは静まり返っていて、部屋の隅の陰影さえ

も深くなる。そして用心して早めに雨戸を閉めるので、一層夜が長くなる。


  一人居や早めの雨戸日短か


一人暮らしには“孤独”という言葉がつきもののようだが、今の私にはそんな気取った

単語よりは “ひとりぼっち”と言う方がぴったりだ。

“ぼっち”とつけただけで、ちょっと甘えた響きに、寂しさとうらぶれ感がある。

ならば、“ぼっち”とはなんだろう? 

調べたら、どうやら“法師”のことらしい。どこの宗派にも属さないフリーのお坊さん

のことを指した“独法師(ひとりぼうし)”がなまったものだという。

“お坊さん”に由来するとかで、なんとなく高貴な感じがし、ますます気に入ったのだ

が、類似句に“千円ぽっち”とか“これぽっち”というのがある。

こちらはだいぶ俗っぽくなっているが、ただ言葉を強調しているのだけのように思う。

いずれにしてもどちらもちょっと自嘲めいているのがいい。


  道端のすみれに話すひとりぼち


私はすっかり不眠症になっていて、眠っても眠りが浅い。

ある晩、とろとろと眠りについたと思ったらバタンと音がした。しばらく布団をかぶっ

て耳をすませていたが、この家では自分しかいなく、一人で確かめるしかないのだと覚

悟を決め、こわごわと寝室を出た。1階2階、すべての部屋を点検していったが、どこも

異常がなく、ただ、立てかけてあった夫のズボンプレッサーが倒れていた。

後日、そのことを友人に言ったら、ご主人、あの世から会いにきたのでは、という。そ

んなことありうるだろうか。


  寒風や亡き夫の声かもしれぬ


戻る