シリーズ 一人暮らしになった(1)
夫との永遠の別れ
朝6時頃、家の電話が鳴った。病院からだった。
「すぐこちらに来られますか? なるべく早く! でも落ち着いて気を付けて来てく
ださい!」
私はすぐ察した。夫が亡くなったのだ。タクシーですぐ駆けつけたが、着いたとき夫
はすでに息がなかった。目を閉じ痩せた顔は薄暗い病室の中でひときわ白い。だが表
情は穏やかだった。
私はそう長くはないだろうと覚悟していたとはいえ、夫の最後の旅立ちの瞬間に立ち
会えなかったことが悔やまれた。何か言い残すことがあったかもしれないし、やって
ほしいことがあったかもしれない。なんだか取り返しのつかない別れ方をしたのでは
ないかという後悔がいつまでも胸にくすぶっている。
夫の長くそしてつらかったであろう闘病生活。
別れは悲しいが夫は辛さから解放されたのだ、と思うことにした。
今は病院で亡くなる人が殆どらしいのだが、入院患者の多くは、家に帰りたい、とい
う気持ちが切実なのだとか。
夫もそうだった。
もちろん自分ではすでに歩けなくなっているし、点滴や導尿などいくつかの管につな
がれていて、せん妄によって意識が混濁している状態で「帰るんだから、すぐ、タク
シーを呼べ!」と私に命令するのだ。「先生に聞いてくる」といって私はとりあえず
座をはずして聞きにいくふりをする。もちろん叶えられるはずもなく、切ない時間だ
った。
ああすればよかった、こうすれば…という心残りはたくさんあるなかで、ついにこの
日で、私は一人になってしまったのだった。
臨終のベッドの脇に冬林檎 |