映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、コミック原作時代劇の表現力に感心したようです。




『るろうに剣心』


仕事の関係で、江戸から明治への転換期、人々の暮らしはどの様に変わっていったの

かを調べている。文字を読んだのでは情報量が圧倒的に少ないから、具体が全て写っ

ている映像が欲しいところだ。写真はそれ自体の歴史が浅く、当時のものはさほどな

いし、多分多くは戦争で焼失してしまっているだろう。ということで、時代考証的に

どうか迷うところもあるが、時代劇も探ってみた。


幕末から明治にかけてのものと言うことで引っかかってきたのは『るろうに剣心』シ

リーズ。和月伸宏による大ヒット漫画を原作とした佐藤健が主役を務める実写映画だ。


幕末に人斬り抜刀斎と呼ばれた最強の剣客・緋村剣心。明治の代に不殺の誓いを立て、

流浪人となって人を助け悪と戦う。まるで過去の惨殺を悔い改め、贖罪でもするかの

ように。戦いの相手は、ニセの抜刀斎、アヘンの悪徳商人、明治新政府の転覆に命を

懸ける男など。どれも強烈な敵で、それぞれを強烈すぎる役者勢が演じている。原作

コミックの絵面が少女マンガっぽく、佐藤健は適役なのだけど、驚いたのは殺陣のシ

ーンの凄まじいこと。ワイヤー利用や編集技術などに拠るところはあるだろうけれど、

CGは使わず役者本人が演じている。アクション監督・谷垣健治の指導のもと、激し

い訓練を積み重ねて限界に挑戦しているらしいが、恐らく役者としてこの時を逃して

はならないとの覚悟があったのだろう。それにしても身体能力が半端じゃない。


剣心は次々と敵を倒しても、決して殺しはしない。剣心の持つ武器は逆刃刀(さかばと

う)と言い、刃の部分が内側にあるから殺せないのだ。そして刀を振り下ろせば、自分

に向かう刃を見る。廃刀令後の帯刀とも相まって、この時代の武士の心にうごめく葛

藤を見るようだった。武士の時代が終わった後の武士の生き方。捨てられたものの生

き方と考えれば、今の社会にも重なることは多い。


因みに"るろうに"の"に"は、てにをはの"に"ではなく、流浪人の読み方だった。最後の

"ん"が無いことを初めて知った。


『るろうに剣心』
2012年/日本/134分/カラー
監督/大友啓史
脚本/藤井清美、大友啓史
音楽/佐藤直樹
出演/佐藤健、武井咲、吉川晃司、江口洋介、香川照之


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