●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんに、人生の辛い局面に新たな局面が。
シリーズ 一人暮らしになった(2)
一人の夜
隣の部屋には夫の遺体がある。
端正に上を向き、固く目を瞑り、まるで置物のようだ。それでも私には家に帰った
安堵感があるように見えた。
長い1日が終わって夜になると、子供たちも帰り一人になった。
介護終へたちまちひとり寒夜かな
疲れているが意識が緊張していて、布団に入っても眠れない。次から次へと、目ま
ぐるしく起こった今日の出来事が思い出される。
病院では、亡くなると夫はすぐ地下にある遺体安置室に運ばれた。驚いたことにそ
こにはちゃんとした祭壇もあり花もある。そこで葬儀社が迎えにくるまで安置され
るのだった。
そのうち、入れ替わり立ち替わり、夫にかかわってくれた病院のスタッフがお焼香
に来てくれた。しかも葬儀社の車で家に帰るときは20人ぐらいの病院の人たちがず
らりと並んで見送ってくれた。
私は、ああ、ここまでやってくれるんだと感動し、そうした手厚い対応に、病院と
は治療だけではなく、人の尊厳を守る強い使命感があるのだと感じたのだった。
冬晴れて亡夫見送る人やさし
そして家に着くと、悲しんではいられない。さまざまな葬儀社との打ち合わせと手
配が待っていたのだった。