映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、先日亡くなった監督の歌を想いました。




歌う監督


映画監督が自作にチラッと出演することがある。これを根付かせたのはアルフレッド・

ヒッチコックではないだろうか。最近日本では、ガッツリ役者として出演している監督

も多く、役者が監督もやっていると言った方が良いのかもしれない。

では映画監督が歌う映画はいくつあるだろうか。ぱっと思いつくのは、クリント・イー

ストウッド監督の『グラントリノ』と大林宣彦監督の『ふたり』だ。どちらもエンディ

ングで。

イーストウッド監督の音楽好きは有名なのだけど、時々自分の映画の音楽も自分で担当

する。これが素晴らしくていつもサントラを買いたくなる。『グラントリノ』もいい

なぁと思っていたら、なんとなんと、遂に自ら歌っていた! エンディングでしわがれ声

の歌が流れてきた時にはびっくり仰天。でも何度でも聴きたくなる味のある声だ。この

人は映画作りに必要な能力を全部持っているのではないだろうか。


大林宣彦監督が尾道で撮った『ふたり』には、出演者の中嶋朋子さんが歌う「草の想い」

と言う曲がある。作詞は大林監督、作曲は久石譲さんによるもので、もちろん素晴らし

いのだけど、なんとエンディングでかかるこの曲を歌っているのは、作詞作曲のお二人

だった。以外にもと言っては失礼だけど、とてもいい。これが好きで、何度聴いたこと

だろう。


昔ひとの心に

言葉ひとつ生まれて

伝えてね この声を

草の想い


その大林監督が先日亡くなった。覚悟はしていたものの、まるでカチカチカチカチと鳴

る映写機の音が、映画が終わると同時に消えてしまったようだ。さびしいなぁ。

大林監督、沢山の素晴らしい映画をありがとうございました。


『ふたり』
1991年/日本/カラー/155分
監督/大林宣彦
原作/赤川次郎
脚本/桂千穂
撮影/長野重一
出演/石田ひかり、中嶋朋子、尾美としのり、富司純子、岸部一徳


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