映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、使命感のような気分で観に行ったようです。




9回目の3.11に『Fukushima 50』


9年前のあの日、福島原発の内部で何が起こっていたか。事故の全体像は、各メディアで

流されよく知られているが、あの瞬間、あの場で何が起き、人がどう動いたかは現場にい

た人間にしかわからない。その詳細を調べ上げ、綿密に再現して見せたのは、それだけで

凄いこと。果敢な挑戦だったと思う。

実際に起こったあれ程の大事故を、当時の人々がご存命のうちに描くのは、容易なことで

はない。時代劇と違って事実を知る多くの人の目があるからだ。フィクションを入れ込む

余地があまりないし、関係者への配慮も当然必要となる。それは表現上の縛りにもなり、

全てをクリアしつつ、単なる再現ドラマではないものをいかに作るか。重要なポイントだ。


また、原発が国策であったということから、この人類的ディザスターについて、どこに視

線を向け、どこまで踏み込んでいるかということも気になっていた。でもそこが突っ込ま

れることはなく、あくまでも大惨事に立ち向かったヒーローたちの物語に徹していた。タ

イトルを見れば当たり前だけど…。

原発問題に関しては、インディーズ映画若しくはドキュメンタリーでしか語ることは難し

いのかもしれないから、それはまた別の話。


配役に関しては、名優たちがズラリと揃った贅沢さ。

最前線でリアルに命をかける伊崎を佐藤浩市、イラつく総理を佐野史郎、その間に挟まれ

ている吉田所長を渡辺謙が演じている。渡辺謙は出て来るだけでテンションの高さを感じ

させるが、役柄の配分を考えると、総理と部下との間で、一番冷静さが求められるのは所

長だ。渡辺謙と佐藤浩市の役、逆の方が良かったように思えてならない。

いずれにしても、よくぞここまで見応えある作品を作られたものだと思った。最後のテロ

ップを見るまでは…。

「…復興オリンピック…」の文言は、口先だけの軽い印象をこの作品に与えてしまった。


『Fukushima 50』
2020年/カラー/122分
監督/若松節朗
原作/門田隆将
脚本/前川洋一
出演/渡辺謙、佐藤浩市、佐野史郎、安田成美/火野正平/富田靖子など


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