映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、馴染み薄かったアニメ作品に思わず感動のようです。




【ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン】


来年開催するダマー国際映画祭の審査員に、新たにバリー・クック監督が参加し

てくださる。現在『ムーラン』の実写版が話題になっているが、こちらはアニメ

版の監督だ。それもあって、去年からアニメを意識的に観るようになった。日本

アカデミー賞の作品リストにアニメが増えていることも意識にある。


そんな中、これは観ておかなければと思ったのが『ヴァイオレット・エヴァ―ガ

ーデン』だ。

孤児だった少女をギルベルト少佐が保護し、文武両道に長けた兵士として育てる。

少佐を慕い、忠実な武器として戦う少女ヴァイオレット。戦場で両腕を失ってし

まうと、同じく致命傷を負った少佐が「愛してる」と告げてヴァイオレットを逃

がす。しかし、彼女には「愛している」の意味がわからない。やがて戦争が終わ

り、通信社に職を得たヴァイオレットは、義手で手紙の代筆をする伝説の自動手

記人形「ドール」となった。


去年大事件に巻き込まれた京都アニメーションの作品で、やはりクオリティが高

い。特に前半の演出、セリフ、思わずメモを取りたくなる場面が続く。そして本

作の声の出演は、恐らく殆ど全員がプロの声優ではないだろうか。不自然なセリ

フの場面さえ違和感を持たないで観ていられた。淡々とした語り口だったヴァイ

オレットが「愛してる」の意味に気づき嗚咽するシーンなどは流石だ。周りのお

客さんたちはしゃくり上げて泣いていた。


反戦のテーマを根底に、背景には世界中の景色がコラージュの様に描き込まれて

いる。エッフェル塔、万里の長城、長崎の様な海岸線…。何代にも亘る時代の流

れが縦軸なら、これらの景色が横軸となって物語に普遍性を与える。重厚なクロ

ニクルの中に絡められた、親へ、友へ、会えなくなってしまった愛する人への手

紙。すんなりとは届かない言葉こそが、大切な宝物のように思えてきた。この映

画は、亡くなった京都アニメーションの人々からの手紙と受け止めよう。


2020年/140分/アニメーション/日本
監督 石立太一
脚本 吉田玲子
原作 「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン」暁佳奈
音楽 Evan Call
出演 石川由依、浪川大輔


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