映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、衰えを知らないあの男の作品を絶賛のようです。




イーストウッドに乾杯!


私、お酒は全く飲めませんが…(笑)。


今年なんと90才のクリント・イーストウッドが、また新作を世に送り出した。今回は1996

年アトランタ・オリンピックの際に起こった実話をベースとした『リチャード・ジュエル』。

主人公リチャードは、オリンピック会場近くの公園で爆発物を発見し、多くの人を避難させ

たが、犯人と疑われてしまう。いわゆる冤罪の物語だ。冤罪と言っても、一旦人命救助のヒ

ーローとして持ち上げられての一転犯人扱いだから、その落差は激しく主人公の苦悩も深い。

同じテーマの同監督作品『ハドソン川の奇跡』を思い出した。


『ハドソン川の奇跡』の方は元々超エリートのパイロットが主人公だが、こちらは法の執行

官に憧れる、企業の冴えないサプライヤーだ。両者の共通項は、冤罪というテーマだけでな

い。愚直なまでに責務に忠実で、自分の周囲がどう動こうと決してブレない芯の強さだ。そ

こには何の優劣もなく清々しい。


リチャードは物語の中では殆ど”バカ”な存在だ。観る者をイライラさせ笑わせもする。し

かし彼の放つ一言が物語の流れを変える(ネタバレ回避)。これが面白い。


彼を支え共闘する弁護士を私の好きなサム・ロックウェルが演じているが、このキャラクタ

ー設定/演出も気に入っている。脇役の役目としては、いかに主人公を振り回し、物語を前

進させるか、という事も重要な要素だ。この弁護士、リチャードを必死で支えるが、彼を刺

激し抑圧された感情を爆発させもする。観る者も爆弾を投げつけられたような瞬間だった。


弁護士と言えばスーツ姿が定番だけど、彼はラフもラフ、短パン姿だったりする。こんな演

出が、リチャードのケースをFBIだの法廷だのという特殊な場での解決ではなく、身近な一

般の問題/解決に落とし込むのだ。助けてくれる友人が、たまたま弁護士だったかのように。


とにかく、人物がしっかりと描かれているイーストウッド作品に、飲めなくても乾杯!


『リチャード・ジュエル』
監督/クリント・イーストウッド
脚本/ビリー・レイ
撮影/イヴ・ベランジェ
出演/ポール・ウォルター・ハウザー、サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ
2019年/アメリカ/カラー/131分


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