映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、巨匠を忍ぶ会に参加してのエピソード。




酒豆忌


怪談映画の巨匠と言われる中川信夫監督が亡くなって35年。毎年、故人を偲ん

で酒豆忌という会が開かれている。ご縁あってお声がけいただき、2年ぶりに参

加してきた。

今回は中川監督の代表作『東海道四谷怪談』の公開60周年とあって、劇場での上

映、女優の北沢典子さん(お袖役)、矢代京子さん、司会の下村健さんによるトー

ク、それに場所を移しての懇親会というメニューだった。


本作は学生時代に観ていたのだけど、ウン十年経って観てもやはり凄い。ファー

ストシーンからカメラワークによる人物間の断絶描写、お岩や宅悦の特殊メイク、

いくつもの部屋の壁を取り払った移動撮影、歌舞伎から取り入れた戸板返し…。

怖くもあるけれど、凄いという印象。だからこそ繰り返しじっくり観たくなる。

お袖役の北沢さんと矢代京子さんによると、中川監督は手紙魔だったらしく、カ

レンダーの裏紙などにささっと書いて送ってくださったとか、病院に入院中には

看護師さんに「ヨーイ、スタート」と言っていたとか…滅多に聞けないエピソー

ドを話して下さった。


酒豆忌という名称は、中川監督がこよなく愛した酒と豆腐に由来する。そのため

懇親会では必ずアルコールと特製の豆腐が提供され、今回も美味しいお豆腐をい

ただいた(お酒は飲むと事件を起こすので自粛)。集まった人たちは存じ上げない

人が多かったのだけど、凄い人だらけ。中川監督の息子さん、助監督の鈴木健介

さん、本作の音楽を担当した渡辺宙明さん、小倉一郎さんもいらしていた。実行

委員の方のお話によると、数年前に小倉さんをお誘いしたら早速来てくださり、

そのまま実行委員にもなってくださったとか。これも中川監督の徳の成せる業か。

小倉さんと言えば、私が子どもだった頃、アイドルだった人だ。今でもお若く、

今でも現役。嬉しくなった。


没後35年も経つのに、映画はあっと言う間に満席。懇親会も大盛り上がり。中川

監督が今でも皆を引き寄せているようだった。


『東海道四谷怪談』
監督:中川信夫
脚本 大貫正義/石川義寛
原作 : 鶴屋南北
撮影 西本正
音楽 : 渡辺宙明
出演 : 天地茂/若杉嘉津子/
1959年/76分/カラー
武男/宮本信子


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