映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、まだ見てない作品のドキュメントでひとり盛り上がってます。




ドン・キホーテを殺した男


『ラマンチャの男』という映画がある。騎士道物語の世界にのめり込むあまり、

現実と小説の世界の区別がつかなくなった老人・ドン・キホーテの話だ。風車を

巨人と思い戦いを挑んでいくエピソードは、様々ある中でも最も有名な話だろう。

子ども時代にこのおじいちゃんの壮大な世界の魅力に憑りつかれ、中学生の時に

は映画の主題歌「見果てぬ夢」のレコードをヘビロテした。九代目松本幸四郎に

よる舞台も勿論観ている。


ところが、この『ドン・キホーテを殺した男』はまだ観たことがない。ドン・キ

ホーテに負けず劣らず(負けるか…)クレイジーなテリー・ギリアム監督が、大変

なトラブルや災害に見舞われながら、20年(ぐらいの長い時間)かけて完成させた

映画だ。これは観なければ。実はこの作品には途中経過を記録したドキュメンタ

リーが存在する。『ロスト・イン・ラマンチャ』だ。この時点でドン・キホーテ

を演じるのはフランスのジャン・ロシュフォール、アメリカのジョニー・デップ

が主演で、撮影はスペインだ。スタッフも世界中から集まってくるなんとも壮大

なプロジェクト! しかも天才ギリアムの頭の中はドン・キホーテ並みにクレイ

ジーときたもんだから、衣装や美術スタッフに対する要求は壮大な妄想世界の造

形だ。撮影までに監督の希望通りの物が作れるのだろうか。キャストのスケジュ

ール調整も困難を極め、リハーサルもできないとなると、クルーのプレッシャー

たるや…お察しいたします! いよいよ明日撮影開始となった時、ロシュフォール

が体調不良でヒコーキに乗れず、早速一同真っ青に。やっと来ていざ撮影となっ

たとたんに大雨に見舞われ、機材もセットもずぶ濡れ。これでもかこれでもかと、

悪魔の大群が撮影現場に押し寄せてくるようだ。50億円の製作費がかかっている

この映画は一体どこへ行ってしまうのだろう…ってことで『ロスト・イン・ラマ

ンチャ』。これを観ると、最終的に出来上がった『ドン・キホーテを殺した男』

も観たくなる。


ちなみに、子どもの頃、彼の名前はドンキー・ホーテというロバみたいな名前な

のだと勘違いしていた。


『ロスト・イン・ラマンチャ』
監督/脚本:キース・フルトン、ルイス・ぺぺ
ナレーション : ジェフ・ブリッジス
出演 : ジョニー・デップ、ジャン・ロシュフォール、ヴァネッサ・パラディ、テリー・ギリアム
2001年/アメリカ、イギリス/93分。


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