映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
猛暑だって映画女史には映画がすぐに涼ませてくれるようです。




映画でひんやり


こう暑くては頭の働きも鈍ってしまって、ダブルブッキングや〆切忘れの失敗をやら

かしてしまう。シャキッとしなければ…という事で、ヒヤッとしたりゾワッとして背

筋が伸びそうな映画を考えてみた。


ヒヤッなら雪や氷が満載の『アナと雪の女王』が真っ先に浮かぶ。触れる物が凍って

しまうという特殊能力を持つ王女エルサとその妹アナ。能力の故に人を傷つけ自分も

傷ついて引きこもる姉を、何とか救い出そうとアナが奔走する。公開当時はレリゴー

ばかりが注目されたが、私が一番見入ったのは、何種類もの雪や氷の表現だった。サ

ラサラのパウダー・スノー、湿り気を帯びた雪の塊、シャキッと透明な氷など。描き

分けが素晴らしい。雪の塊が崩れる場面などは、まるで落雁を解したようなしっとり

感があってお見事。こんな風に描き分けられるなら、きっと砂糖と塩もそれとわかる

ように描き分けられるのだろう。ともあれ、エルサの能力は、今なら私がほしい。


ゾワッとするなら、ホラーかな。『シャイニング』、『死霊のはらわた』、『ゾンビ』

等々。沢山あるけれど、私は『ドラキュラ』ものを選ぶ。子どもの頃からドラキュラ

が好きで、でも怖いから布団を被って覗いたり、顔を手で覆いながら指の隙間から観

たり。怖いもの見たさの誘惑にはいつもすんなり負けていた。

今年は秋に日本の名作ホラーを観に行くことにしている。中川信夫監督を偲ぶ酒豆忌

という集いで、代表作の『東海道四谷怪談』が上映されるのだ。しかも35oフィルム

で。中川監督は怪奇映画の名手のように言われているけれど、ご本人は温厚で人徳あ

り、多くの人から愛されていたらしい。だから亡くなって25年も経つのに、今でも毎

年偲ぶ会が持たれている。『東海道四谷怪談』でゾワッとし、酒豆忌でホッコリして

こよう。


『東海道四谷怪談』
監督: 中川信夫
原作 : 鶴屋南北
脚本:大貫正義/石川義寛
撮影:西本正
音楽 : 渡辺宙明
出演 : 天地茂/若杉嘉津子/江見俊太郎
上映時間: 76分
公開: 1959年


戻る