映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、大スター最後の作品を堪能したようです。




さらば愛しきアウトロー


ロバート・レッドフォードが俳優を引退する最後の作品と言うことで、日比谷シャンテ

に行ってきた。

青春時代に沢山のレッドフォード作品を観てきた者としては、冒頭レッドフォードの後

ろ姿が映った時点からウルウルし、いつまでも終わってほしくない気持ちに駆られた。

周りを見渡すと、どうも映画関係者と思しき人たちが多い。みんな映画史上に燦然と輝

く大スターのラストを見届けようと思ったのかなぁ。


本作は実話に基づくもので、銀行強盗と脱獄を何十回も繰り返した男の話。期待を超え

て大いに楽しませてくれた。

まずは70年代のレッドフォードを思わせる邦題が良い。優しい紳士な、愛すべき銀行

強盗という人物設定も良いし、相手役がシシー・スペイセクという決して美人女優じゃ

ないのも良い。レッドフォードの歴代の相手役は、思えばいつも男優か、正統的美人じ

ゃない女優だった。確かに年輪を重ねた顔は皺くちゃになっていたけど、あの雰囲気、

あの笑顔は健在だったなぁ。大スター・レッドフォードなら、絶対に捕まるシチュエー

ションで捕まらなくても、十分納得できる。穏やかに見つめるだけで人をフリーズさせ

る凄さ。レッドフォードだからこそ成立する場面だろう。派手な殴り合いもなければ、

彼は決して銃を撃たない。銀行強盗を楽しむだけでなく、捕まる事すら楽しんでいるか

のような、どうかしちゃってるキャラクターの面白いこと!


イーストウッドが年寄りの犯罪を描いた『運び屋』と共通点が多いが、『運び屋』で味

わった面白さとはまた別の面白さがある。イーストウッドは、家庭を顧みなかった人生

を悔いて最後にホロっとさせたが、レッドフォードは、最後まで銀行強盗を楽しむシワ

シワの万年青年だった。終盤は若い監督のノリの良い演出で会場に笑いが起こる。私も

素直に笑っているうちに、強盗が犯罪であり主人公は悪党であることを忘れてしまいそ

うになった。これぞレッドフォード・マジックだ。


最近、政治やジャーナリズム、憲法問題などの映画に関わることが多かったので、ゴチ

ゴチになっていた感性を解してくれた極上のエンターテイメントだったなぁ。

音楽も素晴らしかったから、サントラを入手しよう。きっとヘビロテしてしまうぞ。


『さらば愛しきアウトロー』
監督/脚本:デヴィッド・ロウリー
原作 : デヴィッド・グラン
音楽 : ダニエル・ハート
出演 : ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、ダニー・グローバー、トム・ウェイツ、
   シシー・スペイセク


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