映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、エンディングに心奪われたようです。




『少年時代』


戦中・戦後の映画の企画が2本あり、参考にと30年ぶりに篠田正浩監督の『少年時代』

を観た。


第二次大戦の戦局悪化により、東京の家族を離れ富山に疎開した少年シンジ。働き者で級

長も務めるタケシと、私生活では仲良くなるが、学校ではなぜかいじめられる。子ども社

会の派閥争い、裏切り、階級社会の縮図…まるまる大人世界に当てはまるような事が子ど

も世界に投影されている。ただ、大人世界と違うのは、その素直さだろうか。

オープニングでは、戦争中であった当時の靖国神社(大村益次郎の銅像なども)が写される

が、戦闘シーンなどは一切出てこない。どこまでも”戦争時代”ではなく”少年時代”に

徹していた。

全体は二部構成になっており、前半はお山の大将タケシがシンジを支配するが、後半はタ

ケシの対抗馬が現れ、力関係が崩れる。ふと、「私たち、野球しましょう」の一言で物語

の流れがガラリと変わる『瀬戸内少年野球団』を思い出した。力技で物語を転換させるの

が結構心地よい。

学級の権力争いに巻き込まれ、追い詰められるシンジに、運命は救いの道も用意していた。

力による対抗ではなく、物語を語る、つまりエンターテイメントを提供することで難を逃

れるのだ。少年版アラビアンナイトか?面白い!

そうこうするうちに終戦を迎え、シンジが東京に戻る時がくる。別れのシーンは様々な映

画で見た、列車を追うパターンだ。普通に終わるなと思っていたら、油断した私の心に染

み入ってきたのが井上陽水の「少年時代」だった。これにはやられた。


篠田監督には一度お会いしたことがある。新しいジャンルを扱う美術館に何を望むかとい

うインタビューだった。写真美術館もまだ無かった時代だ。映画好きで広島出身の私は、

『瀬戸内少年野球団』の話を聞きたかったけど、グッとこらえて仕事に集中。そんなこと

も思い出した。


『少年時代』
1990年/117分/カラー
監督:篠田正浩
脚本: 山田太一
音楽:池辺晉一郎
美術:木村威夫
出演: 藤田哲也/堀岡裕二/岩下志麻/大滝秀治/大橋巨泉/仙道敦子


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