映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、名監督の映画を観直し新たなエネルギーをもらったようです。




西鶴一代女


フランス・ヌーヴェルヴァーグのジャン・リュック・ゴダールが、好きな映画監督を

3人挙げてほしいと言われて答えたのが「ミゾグチ、ミゾグチ、ミゾグチ」だった。

世界的に高い評価を得ている溝口健二監督。この度、女性の生きざまを描く作品に関

わることになり、溝口作品を30年ぶりにまとめて観直すことにした。まずは『西鶴

一代女』。井原西鶴の『好色一代女』を原作とし、24もあるエピソードの中からいく

つかを選び、映画用に構成し直している。

御所勤めをしていたお春の流転の人生を描いた本作は、身を持ち崩していったお春の

回想形式を取っている。

とある羅漢堂にずらりと並ぶ像。一体一体の像を見ているうちに、過去の男の顔が重

なってくる。それは最初に一途な愛を捧げてくれた身分の低い男の顔だった。この時

代、身分違いの恋は処罰の対象となり、男は斬首、お春は洛外追放となる。これを切

っ掛けに狂い始めた運命は、さまざまな男たちとのエピソードへと流れ込んでゆく。

そのうちの一つは大名の側室となって世継ぎの子を産み、お役御免と捨てられる話。

後に成長した息子を一目見る機会を与えられるものの、最早身分違いで話すことも許

されない。この時代の世の常であろうが、ここでも最初のエピソードと同じく身分違

いの悲劇が描かれる。思えば一つ一つのエピソードは、どれも決して珍しい話ではな

い。にもかかわらず本作に惹きこまれるのは、やはり溝口作品特有の、運命に揺らぐ

人物を捉えたカメラワークや演出によるところが大きいだろう。高めのカメラポジシ

ョンでの移動撮影は、強い意志をもつ女性でありながらも、抗い難い運命に先導され

て動いている様が伝わってくる。

「50の婆が20になるのは無理」とは、娼婦としてすら生きにくくなったお春の吐いた

セリフ。行き場のなくなったお春は、お遍路の旅に出るのだった。

DVDの特典に美術監督の水谷氏の解説がある。長回しの移動撮影を可能にした美術セ

ットの凄さがよくわかって勉強になった。


『西鶴一代女』
監督:溝口健二
原作:井原西鶴『好色一代女』
出演 :田中絹代/山根寿子/三船敏郎/宇野重吉
1952年/日本/148分/モノクロ/スタンダード





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