●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
渋谷は今やコンクリでできたジャングルになってるようです。


習うより慣れよ その1


東横線に副都心線が乗り入れて地下に潜って以来、私は渋谷にはあまり近づかない。

なにしろ渋谷の東横線ホームは地下5階、地上に出るのも一苦労。おまけに再開発とや

らで、工事、工事で行くたびに通路が変わる。まるで迷路のようなのだ。

ところが先日千歳烏山に住む友人宅に招かれ、渋谷を通ることになった。

私は入念にネットで乗換案内を検索した。

渋谷経由で、井の頭線の明大前に行き、さらに京王線に乗り換え、千歳烏山へ行くのが

最も効率的なよう。所要時間は約60分。念のため乗換駅の渋谷の構内図も調べた。

よし、これで事前の学習は完璧だ。

さて当日、2本早めに東横線に乗り余裕だった。

そしてメモ片手に渋谷駅のホームに降り立ち、きょろきょろすると、頭の上の案内板に

「井の頭線」の表示。な〜んだ、これに従っていけばいいんだ、とせっかく書いたメモ

はしまい込み、矢印の下のエスカレーターに乗った。上りきったところで井の頭線への

矢印に従い、また上る、また探す、上がったり下りたりの繰り返し。なかなか井の頭線

に辿り着かない。

その頃から焦りだした。

外の景色が見えないビルの中の通路。周りはせかせかと足早に歩く無表情の人、人、人。

ここはどこ? 私は誰? のパニック状態。

10分以上歩いただろうか、ようやく右手下に外の景色がチラと見えた。なぜかハチ公

広場なのだ。え〜なんで〜と思いながらさらに回り込んで、今度はなんと渋谷駅西口が

眼下に。

井の頭線の矢印があるので仕方なく階段を降りて外に出る。前方に井の頭線入り口の表

示を見つけ、道路を横切り階段上ってようやく井の頭線改札口へ着いた。

なんと大回りをしたことだろう。確か昔は外へ出ずにショートカットの通路があったは

ずなのに…もうへとへとだった。

時計を見ると予定の電車の発車時間すれすれ。慌ててホームに止まっている電車に飛び

乗った。

息を整え、「明大前」で乗り換え、予定より1台遅い電車に乗り、なんとか「千歳烏山」

での待ち合わせに間に合った。ほっ!

さて、帰途の渋谷駅。

井の頭線の出口をまっすぐに進むと右手にあの懐かしい岡本太郎の大壁画が見えた。そ

うそう、これこれ。ここから、ちょっとくねった通路から左へ行けば銀座線、下へ降り

れば昔懐かし東急名店街とすっかり昔の勘が戻り、私はスイスイと東横線に辿り着いた

のであった。

慣れこそ強い武器。

それにしても昔の渋谷駅が懐かしい。


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