映画だ〜い好き 文は福原まゆみ
尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、マイペースの90才に感心感じ入ったようです。
イーストウッド10年振りの主演作
待ちに待ったクリント・イーストウッド監督・主演作品『運び屋』が公開された。88歳
のイーストウッドが、90才(だったはず)の麻薬の運び屋を演じる、実話に基づく話だ。
チラシを見る限りでは、ハードボイルド?と先入観を持ってしまうけれど、さにあらず。
ハードボイルドどころか、ヨボヨボなおじいちゃんのゆるい往復ロードムービーと言った
感じだし、イーストウッドの近作に多い贖罪のテーマが色濃く描かれていた。
おじいちゃんは、特殊なユリを育てて成功した園芸家。仕事中心の生活で家族関係はとっ
くに崩壊している。インターネット通販に押されて農園の経営が破綻し…と、話のお膳立
て自体は決して珍しくない。問題はここから先のおじいちゃんの行動だ。
長年の無事故・無違反を買われ、麻薬密売組織にスカウトされたおじいちゃんが、そうと
は知らず運び屋をさせられる。何時間もかけて大量のコカインを運ぶ道中は、なんともご
機嫌よろしく鼻歌を歌いながらの運転だ。何度も何度も都市を往復するのに、運び屋を追
う警察には全くバレず捕まらない。そりゃそうだろう。おじいちゃんはヨボヨボだし、麻
薬の運び屋とは程遠い世界の人にしか見えないから疑われないのだ。むしろ労わられ、尊
敬もされる。普通の高齢者のように。
麻薬組織から寄り道禁止と時間厳守を命じられ、暫くは忠実に任務を遂行していたおじい
ちゃん。ある事がきっかけで長〜い寄り道をしてしまう。怒った組織に追われ、警察にも
追われ、それでもマイペースを崩さないのが流石の90才だ。
何だかんだで素直に正直に、楽しく生きてきた人生だったけど、その終盤にきて真に大切
な事、尊い事に気付き、しなやかに方向転換する。イーストウッドの今までのカッコよさ
はもちろん無い。でも90歳のしなやかなけじめのつけ方は、カッコよさよりいい。じわ
りと泣けた。
『運び屋』
監督:クリント・イーストウッド
出演 : クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー
2018年/アメリカ/116分/カラー