映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、懐かしさ(?)とペーソスのあるエンタメ作品を観ました。




活動弁士よ永遠なれ!


ミュージカル『舞妓はレディ』から5年。久しぶりの周防正行監督作品は、今から約

100年前に活躍していた活動弁士(略してカツベン)の話だ。「日本にはサイレント映

画はない」と言われるのは、このカツベンが、今で言うナレーターや声優の役割を果

たしていたからだ。しゃべるしゃべる、ここぞとばかりに話芸を披露し、映画の内容

を独自に作り上げていく。ファンがついてスターになっていくカツベンもいたらしい。

そんな背景の中、ひとりの少年が憧れのカツベンを目指し、成長していくエンターテ

イメント作品だった。


映画界の内幕ものは数あれど、カツベンを取り上げた作品は珍しいのではないか。

脚本が出来すぎなくらい良い。史実にうまく作り話を入れ込み(逆か)当時の映画を取

り巻く状況を楽しませてくれるし、映画あるあるの宝庫だった。子どもは劇場にこっ

そり入り込みタダ見。あるある。キャラメルは駄菓子屋で盗む。あるある。可燃性セ

ルロイドフィルムの発火。実際1984年にフィルムセンター(現在の国立映画アーカイ

ブ)で起こった火災はこれが原因とされてる。これは二度とあってほしくない。


主人公を演じるのは成田凌。カツベンとして成長していくわけだが、話術にどんどん

磨きがかかり、終盤の見せ場聞かせ場の素晴らしいこと! 永瀬正敏演じるベテラン弁

士も流石の語りで、一瞬彼の声だとわからなかった。ニヒルに映画の本質(画面が語

るから言葉はなくてもわかる)を酒に溺れながら語る場面は秀逸。


警官との追っかけごっこ、アホな逃げ方、乗り物のあり得ない壊れ方……。スラップ

スティック・コメディの要素がふんだんに盛り込まれており、この映画全体が、在り

し日のサイレント映画のよう。しかし、チャップリンがそうであったように、ペーソ

スの要素を入れることも忘れていない。後に映画それ自体が音声を持ちトーキーの時

代に入ると、カツベンの活躍する場がなくなっていく。それを暗示するかのように、

ラストの語りは映画館ではなかった。


『カツベン!』
監督/周防正行
脚本/片島章三
撮影/藤澤順一
編集/菊池純一
出演/成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、竹中直人
2019年/カラー、モノクロ/126分
信子


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