映画だ〜い好き 文は福原まゆみ
尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
この動物には多分初めての主役ドキュメント、映画女史はきっちり見とどけました。
ドキュメンタリー『馬ありて』
渋谷のシアター・イメージフォーラムで毎日朝一回だけ上映されている『馬ありて』。
この映画が作られていることは全く知らなかったが、完成後に海外映画祭に出品するの
を少しお手伝いしたご縁がある。
今、「馬」というと何を思いつくだろうか。時代劇に出てくる侍の移動手段、カウボー
イの乗り物(ホースボーイでも良いような気がするが)、競馬、馬刺し…。現代の日本で
は専ら競馬だろうか。馬刺しを見て力強く野を駆ける馬は想像しにくい。
ではアニメのキャラクターに馬はいただろうか?ライオン、象、猫、犬、ネズミ…名前
の付いた人気キャラクターは多々存在するが、「馬」と言うのは聞いたことがない。
でも実は、古来より馬は人間の生活と切っても切り離せない大切な存在だった…ようだ。
それを教えてくれたのがこの『馬ありて』だ。ナレーションはなく、全編モノクロの深
い映像で、重いソリを引く「ばんえい競馬」、山奥で伐採した木材を運ぶ「馬搬」、馬
の売買をして生活する「馬喰」、更には「オシラサマ」という人間の娘が馬に恋する民
話まで描かれる。オシラサマは信仰の対象となり、多くの木彫、絵画が残されているこ
とに驚く。消えゆく日本古来の文化を記録していることはもちろん貴重だが、本作に惹
かれるのは、何と言っても人間と同じく生きているものの愛おしさだろう。馬の潤んだ
瞳、ソワソワしている時の動き、酷寒の中で吐く綿菓子の様な息。ただの道具としての
存在ではなく、生きるものとして人間と共生してくれていた(る)のだった。
『馬ありて』
監督/撮影/編集:笹谷遼平
音楽 : 茂野雅道
2018年/モノクロ/ドキュメンタリー/88分本信子