映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史の心をしっかり掴んだ1本のようです





ファミリー・ツリー


年末から怒涛の忙しさで、暫く映画館に映画を観に行けない日が続いている。仕方なく夜

中に自宅でDVDを観ることに。疲れているから頭を抱えるようなものでもなく目が覚める

ようなものでもないものを、と言うことで、『ファミリー・ツリー』を選んだ。

既に何度か観ているのだけど、これは何度も繰り返し観たくなるような映画なのだ。「無

人島に一作だけ持って行けるとしたら何を選ぶ?」と聞かれたら、確実に選択肢の中に入

る。派手なものは何もないけれど、良質な作品という言葉がぴったりくる。

ハワイの土地持ち一家の話で、傍目には幸せそうに見えるけど、父親が仕事に没頭し家庭

を顧みないというよくある設定だ。妻が水上スキーの事故で植物人間状態になり、この父

親が娘二人と初めて向き合うハメになった。荒れる二人をどう扱ったものか四苦八苦する

父親。あるとき長女から妻の浮気を聞かされ…。

ハワイ、裕福、ハワイアン音楽、沢山の親族たち等々。穏やかな要素がいっぱいのところ

に妻の浮気という波紋が広がる。父親を演じるジョージ・クルーニーが、いつもと違って

カッコ悪い親父姿を曝け出しているのが新鮮だ。最初から最後までこの父親がオロオロド

タバタする。

本作の面白さは、何と言っても一人一人のキャラクターに厚みがあることだろう。ぱっと

見カッコいい父親が、妻の浮気を知ったとたんにまるで子どもの様に自分の気持ちに振り

回され行動する。アホでどうしようもない長女のボーイフレンドも、さり気なく悲哀のこ

もった言葉を吐き、ここぞという時に細やかな気配りを見せる。いつの間にかまるで家族

の一員になっていた。

この脇役の設定、うまいなぁ。

誰もがカッコよくてカッコ悪い。妻の浮気や尊厳死のテーマを扱いながらも深刻に突き進

むことなく、かといって笑いにも指向し過ぎない。微妙な匙加減が心地よかった。

そしてラスト。あまりにも普通な親子の一場面だけど、これもうまい! もう一度観よう。


『ファミリー・ツリー』
2012年/115分/カラー/アメリカ
監督 : アレクサンダー・ペイン
撮影 : フェドン・パパマイケル
音楽 : 全てハワイ音楽
出演:ジョージ・クルーニー


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