●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんには、すぐ近所に信頼できる友だちがいるようです。



アイドル犬・ゴン


我が家の3軒先にゴンという名の犬が飼われている。

道路に面した小さなガレージの奥に犬小屋があるのだが、大抵その前に敷かれた毛布

の上で丸くなって寝ている。

どこにでもいる特徴のない平凡な茶色の柴犬で、吠えたのを見たことがない。

留守がちな飼い主の意に反して番犬の役をなさないぶん、性格が人懐っこく、おとな

しく、謙虚で、分をわきまえ、出しゃばらないのがいい。

そんなわけで、猫派の私だけど、つい立ち止まって撫でたり、声をかけたりして仲良

くなった。

おいで、ゴン! と声をかけるとのっそり立ち上がって尻尾を振ってくれるのがうれ

しい。

ところが、どうやらこの親密な関係は私だけにではないらしい。

行き交う犬好きの人が大抵ここで立ち止まり、話しかけ、ときどき餌をあげているの

を見てしまった。ゴンは結局、皆に愛されるご近所のアイドル犬のような存在になっ

ているのだった。

ふん、妬けるなあ、と思ってみても私は飼い主ではないし、ひとえにゴンの性格の良

さからくるのだ。

犬特有の忠実で人間を信じ切っている一途さに私はすっかり参った。

ある日、私はあることに悩み、心が迷っていたとき、立ち止まってゴンに話かけたの

だった。

(どうしよう、ゴン)

すると、ゴンはつぶらな瞳でまっすぐに私を見つめて

(あんたの思っているようにしたらいい、それが一番だよ)

と、こたえてくれた。

それから私はときどきゴンにいろんなことを打ち明ける。

なんたってゴンなら口が堅いから、バラされたり近所のうわさになることもないから

安心なのである。


戻る